むずかしい値動きを、やさしい言葉で。
Today's Market
Market Snapshot — 主要指標
10日、サウジアラビアがOPEC事務局に提出した報告で、8月の同国の原油生産量が日量623万8000バレルと、湾岸戦争が始まった1990年以来の低水準まで落ち込んでいたことが明らかになった。再燃した米国とイランの軍事的対立が、この地域からの輸出ルートそのものを混乱させていることが原因とみられる。6日の記事で触れたホルムズ海峡の緊張、9日に伝わった米軍によるタンカー攻撃やフーシ派によるサウジ攻撃といった一連の報道は「懸念」の段階だったが、この日の生産統計は供給が実際に細っていることを裏付ける一次データという点で重みが違った。この結果、WTI原油は前日比6.7%高の1バレル102.48ドルまで急伸し、約4カ月半ぶりの高値をつけた。
原油高はそのまま物価統計にも表れた。10日発表の米8月生産者物価指数(PPI)は前年比5.4%上昇と、市場予想(5.3%)・前月(4.8%)をともに上回る加速となり、エネルギー価格が前月比4.2%上昇、なかでも軽油(ディーゼル)は24.1%も跳ね上がった。インフレの長期化観測から米10年国債利回りは4.97%まで上昇し、年初来でも一段と高い水準に達した。この結果、NYダウは316ドル56セント安(0.60%安)の5万2064ドル10セント、S&P500は0.58%安の7591ドル70セント、ナスダック総合は0.65%安の2万6081ドル72セントとそろって続落。エヌビディアが2.21%安、マーベル・テクノロジーやインテル、ラムリサーチといった同業も3%前後下落するなど、長期の設備投資に伴う資金調達コストの増加が意識され、半導体株に売りが集中した。半面、アップルが1.60%高、コカ・コーラが1.38%高、ウォルマートも1%超上昇するなど、金利変動の影響を受けにくいとされる銘柄には資金の逃避先としての買いが入り、同じ「金利上昇の日」でも銘柄によって明暗が分かれた点は9日の記事とも共通する構図だった。
11日の東京株式市場では、前日までの流れをそのまま引き継ぐ形で朝から売りが先行した。日経平均は寄り付きから994円13銭安の6万4276円82銭で取引を始め、午前中には下げ幅が2000円を超える場面もあった。後場に入った直後も1909円91銭安からのスタートとなったが、その後は押し目買いが入って下げ渋り、終値では前日比1259円61銭安(1.93%安)の6万4011円34銭で取引を終えた。下げ幅そのものは今週で最も大きかったが、最悪期からは幾分戻した格好だ。一方、時価総額加重で算出するTOPIXの下落率は0.65%(26.28ポイント安の4028.30)にとどまり、日経平均の下落率の3分の1程度にしかならなかった。この差は、日経平均が株価の高い銘柄の値動きに強く引っ張られる「値がさ株指数」であることを改めて示している。
その象徴が半導体製造装置大手のアドバンテストで、前日比7.34%安となり、この1銘柄だけで日経平均を約617円押し下げた。米長期金利の一段の上昇とPPI加速を受けた米国市場での半導体株安がそのまま波及した格好で、理由としては前日の米国市場の流れと地続きだ。一方、同じ半導体関連でもレゾナック・ホールディングスが9%超下落したのは事情が異なる。国内証券が「半導体材料メーカーとしての高い評価はすでに株価に織り込まれつつある」として目標株価を引き下げたことが直接のきっかけで、金利上昇そのものというより個別の評価見直しが主因だった。さらにHR系のビジョナルも7.58%安となったが、こちらは前日発表した2027年7月期の営業利益見通しが市場予想を下回ったことが理由で、原油や金利とはまったく関係のない決算材料だ。「半導体株が軒並み売られた日」に見えても、値下がりの理由を一つひとつ確認すると、金利要因・個別評価要因・決算要因とまちまちである点は、値動きをひとまとめに語ることの危うさを示している。
為替市場ではドル円が153円96銭から154円61銭のレンジで一進一退となり、東京時間15時台では154円30銭前後で推移している。日本時間の午後にかけてはニューヨーク原油先物が1バレル101ドル付近まで上げ幅を縮めたことで一時的にドル買いが後退する場面もあったが、米長期金利の高止まりが引き続きドルの下支えとなっている構図に大きな変化はない。株式市場の値動きの大きさを映すVIX恐怖指数は前日比8.38%上昇の17.84となり、9日の16.46からさらに水準を切り上げた。
目を引くのは金(ゴールド)の反応だ。原油高・中東の緊張激化・インフレ加速・株安がそろい、本来であれば「有事の金買い」が最も出やすい条件がそろっているはずだが、NY金は前日比1.94%安の1オンス4364.45ドルと、9日の0.22%安よりもむしろ下げ幅を広げた。米長期金利が52週ぶり高水準を更新し続けるなかで、金利のつかない資産である金を持つ機会費用が日に日に高まっていることが、この「有事なのに売られる」というねじれをより強めている格好だ。一方でビットコインは1枚7万9400ドル前後まで小幅に切り返しており、金と同じ「金利のつかない資産」でありながら、この日は金ほど下げ圧力を受けなかった。この差がどこから来るのかについては、はっきりした材料は確認できず、単に値動きの荒さの違いとみるべきかもしれない。
Movers — きょう大きく動いた銘柄・資産
米生産者物価指数(PPI)の加速と米長期金利の一段の上昇を受け、前日の米国市場で半導体株全般が売られた流れがそのまま波及した。値がさ株であるため、この1銘柄だけで日経平均を約617円押し下げた
国内証券(SMBC日興証券)が「半導体材料メーカーとしての高い評価はすでに織り込まれつつある」として目標株価を引き下げたことが直接のきっかけ。金利上昇よりも個別の評価見直しが主因とみられる
前日発表した2027年7月期の営業利益見通しが市場予想を下回ったことによる失望売り。原油高・金利高とは無関係の決算材料
米長期金利の上昇で成長株の割引率が高まったほか、大型投資が続く半導体各社の資金調達コスト増への警戒が重荷になった
インテルやラムリサーチなど同業とそろって3%前後下落。エヌビディアと同様、金利上昇に伴う調達コスト増懸念が半導体株全般に波及した
主要3指数がそろって下げるなか、比較的金利変動の影響を受けにくい銘柄として相対的に選好されたとみられる
生活必需品セクターへのディフェンシブな買いが入ったとみられる。ウォルマートも1%超上昇するなど、値動きの荒い相場で値持ちの良い銘柄に資金が向かった
きょうの用語解説
物価が上がる理由は大きく二つに分けて考えられる。一つは景気拡大や消費・投資の活発化によって需要そのものが強くなり、モノやサービスの値段が押し上げられる「ディマンドプル型インフレ」。もう一つは、原材料費やエネルギーコストなど供給側のコストが上昇し、それが価格に転嫁されることで起きる「コストプッシュ型インフレ」だ。10日発表の米8月PPIが前年比5.4%まで加速した背景には、エネルギー価格の上昇(なかでも軽油は前月比24.1%高)があり、これは需要が特別強いからではなく、原油の供給不安というコスト側の事情によるものという意味で、教科書的なコストプッシュ型インフレの一例と言える。
この二つの違いが重要なのは、中央銀行の主な武器である利上げの効き方が根本的に違うからだ。ディマンドプル型インフレであれば、利上げで借り入れコストを上げて需要を冷ませば、物価上昇の原因そのものを抑えられる。しかしコストプッシュ型インフレの場合、利上げは需要を冷やすことはできても、原油の供給不足という原因そのものには手が届かない。つまり景気を悪化させる副作用だけを負って、肝心の物価は思うように下がらないという事態(不況とインフレが同時に進む「スタグフレーション」)に陥りかねない。この日、米長期金利の急上昇という同じニュースに対して、国債(金利上昇)・株式(下落)がそろって売られたのは、まさに「利上げでは解決しにくい種類のインフレ」に市場が身構えたことの表れと見ることができる。
きょうのなぞなぞクイズ