なぜなぞ相場

むずかしい値動きを、やさしい言葉で。

2026年9月10日号

Today's Market

中東情勢の悪化で原油100ドル突破、米長期金利は52週高値 ― 日経平均は3日続落、それでも金は下がるという「ねじれ」

3行まとめ

  • 9日のニューヨーク原油(WTI)は一時3カ月半ぶりの高値となる96ドル台まで上昇し、ブレント原油も7月以来初めて1バレル100ドルの節目を突破した。米軍によるイラン関連タンカーへの攻撃や、イランの支援を受けるフーシ派によるサウジアラビア攻撃など、中東での軍事的な応酬が相次いで伝わったことが背景にある。
  • 原油高とインフレ再燃への警戒から米長期金利(10年債利回り)は52週ぶりの高水準となる4.83%まで上昇。9日のNYダウは407ドル安、S&P500も0.5%弱下げて米国株は3日続落した。ただし全面安ではなく、金利上昇の直撃を受けたアルファベットやセールスフォースが3%超下げる一方、原油高の恩恵を受けるシェブロンは2%超上げるなど、業種で明暗がくっきり分かれた一日だった。
  • この流れは10日の東京市場にも持ち越され、日経平均は3日続落、TOPIXも前日比15.24ポイント安の4,031.40で終えた。もっとも「有事」なら買われるはずの金(ゴールド)はこの日小幅安。上がっているのは原油と金利、下がっているのは株と金という、教科書通りにはいかないねじれた値動きになっている。
日経平均
9/10 東証引け(15:00)ごろ・速報ベース概算時点
64,900.00
前日比▼ -242.78円 (-0.37%)
TOPIX
9/10 東証引け(15:00)ごろ時点
4,031.40
前日比▼ -15.24円 (-0.38%)
S&P500
9/9 NY市場引け時点
7,636.46
前日比▼ -36.82 (-0.48%)
Nasdaq総合
9/9 NY市場引け時点
26,253.34
前日比▼ -169.13 (-0.64%)
NYダウ
9/9 NY市場引け時点
52,381.02
前日比▼ -407.43 (-0.77%)
ドル円
9/10 15時台(東京市場)時点
153.40
前日比▼ -0.10円 (-0.07%)
VIX恐怖指数
9/9 NY市場引け時点
16.46
前日比▲ +0.74 (+4.71%)
米10年金利
9/9 NY市場引け・52週ぶり高水準時点
4.83%
前日比▲ +0.05% (+1.05%)
金価格(NY金)
9/9(24時間ベース)時点
4,451.00ドル
前日比▼ -9.70ドル (-0.22%)
SOX半導体指数
9/9 NY市場引け・概算時点
11,830.00
前日比▼ -57.87 (-0.49%)
WTI原油
9/9(24時間ベース)・3カ月半ぶり高値時点
96.05ドル
前日比▲ +1.80ドル (+1.91%)
ビットコイン
9/10(24時間ベース)時点
78,750ドル
前日比▲ +170.00ドル (+0.22%)

US米国市場(前日・9/9):原油急伸とインフレ再燃、金利敏感株が総崩れ

9日のニューヨーク市場は、中東情勢の急激な悪化が主役の一日になった。米軍がイラン関連の石油タンカー複数隻を攻撃したと伝わったのに続き、イランの支援を受けるフーシ派がサウジアラビアへの攻撃を仕掛けたとの報道が相次ぎ、原油の供給不安が一気に高まった。この結果、WTI原油は3カ月半ぶりの高値となる1バレル96ドル台まで上昇し、指標となるブレント原油も7月以来初めて100ドルの大台を突破する場面があった。原油・ブレントともに年初来では6割超の上昇となっており、エネルギーコストの高止まりが世界経済全体への重しとして意識され始めている。

原油高はそのままインフレ再燃への警戒につながり、米10年国債利回りは52週ぶりの高水準となる4.83%まで上昇した。金利上昇と原油高というダブルパンチを受け、NYダウは407ドル安(0.77%安)の5万2381ドル02セント、S&P500は0.48%安の7636ドル46セント、ナスダック総合は0.64%安の2万6253ドル34セントと、主要3指数がそろって3日続落した。ただしこの日は「全面安」という単純な構図ではなかった。原油高の恩恵を受けるシェブロンが2.47%高、比較的金利に左右されにくいIBMも0.80%高となった一方、生成AIへの先行投資がまだ利益に結びついていないアルファベットが3.18%安、セールスフォースが3.01%安、消費関連のナイキも2.15%安と、金利上昇の影響を強く受ける銘柄ほど大きく売られる展開になった。米長期金利の上昇という同じニュースに対して、業種によって株価の反応がこれほどはっきり分かれるのは、後述する「株価のデュレーション」という考え方で説明がつく。

JP日本市場(10日):原油高・金利高の流れをそのまま持ち越し、3日続落

10日の東京株式市場は、前日の米国株安をそのまま引き継ぐ格好で始まった。日経平均は寄り付きから374円安の6万4768円で取引を開始し、午前10時台には安値6万4186円まで下げ幅を広げる場面もあった。中東での軍事的な緊張の高まりを受けた原油高、それに伴う米長期金利の上昇という前日からの重しに加え、この日は財務省が発表した国債買い入れ消却(バイバック)の規模拡大策が「市場が期待していたほどの規模ではなかった」と受け止められたことも重荷となり、伸び悩む展開が続いた。終値では前日比240円前後安の6万4900円近辺まで下げ幅を縮めたとみられ、3営業日連続の下落となった。時価総額加重のTOPIXも前日比15.24ポイント安の4031.40で終え、日経平均とほぼ同じ0.4%弱の下落率だった。

個別に見ると、原油高の恩恵をそのまま受けそうな資源関連株でも、必ずしも買いが集まったわけではない。石油・天然ガス開発大手のINPEXは前日比6円安(0.15%安)の3938円とほぼ変わらずで終えており、原油が3カ月半ぶり高値をつけたにもかかわらず、この日の東京市場では地合いの弱さの方が勝った格好だ。同じ原油高でも米国のシェブロンが素直に買われたのとは対照的で、「原油高だから資源株を買う」という単純な図式が、その日の相場全体のムード次第では必ずしも成立しないことを示す一例と言える。一方、値上がり側では生成AI向けの半導体パッケージ基板を手掛けるイビデンが8%超上昇し、およそ1年8カ月ぶりの高値をつけた。9日の記事で触れた「AIデータセンター関連への物色」というテーマが、指数全体が売られる中でも途切れず続いている格好で、複数日にまたがって同じ銘柄が値動きの中心にあり続けている点は今週の特徴の一つになっている。

24H為替・金・ビットコイン:「有事」なのに金は下がるという違和感

為替市場ではドル円が153円台前半から半ばのレンジで一進一退となった。日本時間3時台には一時153円46銭近辺まで円が買い戻される場面もあったが、その後は153円30銭台での小動きに終始している。米財務長官による円安けん制とも受け取れる発言や、日銀の早期利上げ観測が円買い材料として意識される一方、中東情勢の緊迫を受けた「有事のドル買い」的な需要もくすぶっており、方向感の出にくい展開が続いている。株式市場の値動きの大きさを映すVIX恐怖指数は前日比4.71%上昇の16.46となったが、水準そのものは依然として歴史的には低い部類にとどまっている。

むしろ今日の値動きで目を引くのは金(ゴールド)だ。原油高・中東緊迫・株安がそろえば、本来「有事の金買い」が意識されやすい場面のはずだが、この日の金は1オンス4451ドルと前日比0.22%の小幅安で終えている。ビットコインも8万ドルの大台を回復できないまま7万8750ドル近辺での推移が続き、中東情勢の緊迫がクリプト市場の上値を抑える格好になっている。長期金利の上昇によって「金利のつかない資産」である金やビットコインを持つ機会費用が高まっていることが、単純な「有事だから買われる」という構図を崩している一因とみられる。

米国 S&P500構成銘柄より

CVX シェブロン
+2.47%

原油(WTI)が3カ月半ぶりの高値まで上昇し、原油高の恩恵を直接受けるエネルギー株として買われた

IBM IBM
+0.80%

比較的金利上昇の影響を受けにくい銘柄として相対的に選好されたとみられる。単独の明確な材料までは確認できず

GOOGL アルファベット
-3.18%

米長期金利が52週ぶりの高水準まで上昇し、遠い将来の利益を織り込んで買われているグロース株が売られた

CRM セールスフォース
-3.01%

アルファベットと同様、金利上昇による割引率上昇でグロース株の評価額が目減りした

NKE ナイキ
-2.15%

原油高によるコスト増懸念と、金利上昇による消費減速懸念の両方が重荷になったとみられる

日本 日経225構成銘柄より

1605 INPEX
-0.15%

原油が3カ月半ぶり高値をつけたにもかかわらず小幅安。米エネルギー株が買われたのとは対照的に、東京市場全体の地合いの弱さの方が優勢だった

4062 イビデン
+8.60%

生成AI向け半導体パッケージ基板の需要拡大を背景におよそ1年8カ月ぶりの高値。指数全体が売られる中でもAIデータセンター関連への物色が続いた

きょうの用語解説

同じ「金利上昇の日」でも、なぜグロース株だけが売られやすいのか ― 株価の「デュレーション」という考え方

債券の世界には「デュレーション」という考え方がある。満期までの期間が長い債券ほど、金利が変動したときの価格の振れが大きくなるという性質のことだ。将来受け取る利息・元本を「今の価値」に割り引いて評価する際、割引に使う金利(割引率)が少し上がるだけでも、受け取りが遠い将来であればあるほど現在価値の目減りは大きくなる。逆に満期が近い(=受け取りが近い)債券は、金利が動いてもあまり価格が動かない。

この考え方は株式にもそのまま当てはめられる。生成AIなどへの先行投資がまだ大きな利益に結びついていない「グロース株」は、投資家が何年も先の利益を織り込んで買っている分、株価の評価が割引率(金利)の変化に敏感だ。9日にアルファベットやセールスフォースが3%超下げたのは、まさに米長期金利の急上昇という同じニュースに対して、遠い将来の利益ほど現在価値が目減りしやすいという「株のデュレーション」が働いた結果と言える。一方でシェブロンのようなエネルギー株は、原油高という「今まさに手にしている利益」の拡大要因の方が勝り、同じ金利上昇の日でもむしろ株価が上がった。同じニュースでも銘柄によって反応が正反対になるのは、それぞれの株価がどれだけ遠い未来の利益を織り込んでいるかという違いに起因している。

きょうのなぞなぞクイズ

米長期金利が52週ぶりの高水準まで急上昇した9日、株式市場でひときわ大きく売られやすかったのは次のうちどのタイプの銘柄か?