むずかしい値動きを、やさしい言葉で。
Today's Market
Market Snapshot — 主要指標
きっかけは8月31日深夜、ホルムズ海峡を航行していた超大型原油タンカー2隻が相次いで飛来体に被弾したことだった。サウジアラビアの海運会社バーリが運航する「シドル」がオマーンのハサブ北東で、Sinokorが運航する「セネガル・プロスペリティー」がオマーン東方でそれぞれ攻撃を受け、いずれもペルシャ湾外に向かう途中だったという。ブレント原油は一時1.9%高の1バレル92ドル24セントまで跳ね、WTIも週を通じて9%ほど値を上げ、4日時点では91ドル前後で推移している。この海峡危機自体は2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃とその後のイラン革命防衛隊による事実上の海峡封鎖から続くもので、7月・8月にも同様の緊張の再燃で海運株や資源株が急伸する場面が繰り返されてきた。今回の攻撃は、くすぶり続けてきたその火種が9月に入って再び燃え上がったことを示している。
この供給不安に最も素直に反応したのは週明けの米国株だった。エクソンモービルは9月1日に2.7%高、シェブロンも2.1%高となり、原油高の恩恵を受けやすい資源メジャーが真っ先に買われた。ところが週の最終営業日となった4日、日本のINPEXとENEOSホールディングスはそろって下落している。INPEXは原油高を追い風に週前半まで4営業日続伸し、約3カ月半ぶりに株価4000円台を回復していたが、4日は利益確定売りが優勢となり2.80%安で終えた。ENEOSも1.93%安。この日のWTI自体はほぼ横ばい(前日比-0.08%)だったことを考えると、供給不安という物語そのものが弱まったわけではなく、週前半に買われすぎた分の巻き戻しが先に出たと見るのが自然だろう。「原油高の恩恵株」と「原油そのものの価格」が、同じ週の中でも必ずしも同じ方向を向くわけではないことを示す一例だった。
株式市場全体を見ても、この一週間は綱引きの連続だった。週半ばにはFRBのウォラー理事がハト派的な発言をしたことで9月の利上げ観測が後退し、米長期金利が低下して株価が持ち直す場面があった。しかし金曜4日、8月の雇用統計で非農業部門雇用者数が市場予想(5万5000人程度)の3倍近い16万2000人増となったことで、利上げ再開への警戒が一気にぶり返し、この日だけでNYダウは271ドル安、S&P500・ナスダック総合も下落した。結果として週間の騰落率はNYダウが▲0.3%、S&P500が+0.1%、ナスダック総合が+0.4%と、荒れた一週間の割には指数自体はほぼ横ばいに収まっている。日経平均も金曜の806円高で5営業日ぶりに反発したとはいえ、その反発はソフトバンクグループとアドバンテストの2銘柄への集中投資という色合いが強く、週間で見れば依然▲2.1%。時価総額加重のTOPIXが週を通じてほぼ動かなかったことも含めて、「原油」「金利」「個別テーマ株」という3つの綱が互いを打ち消し合った一週間だったと言えそうだ。
為替市場では土日は主要な取引参加者が少なく値動きが乏しくなりやすいが、ドル円は156円20銭前後と、4日のNY市場引け値(156円36銭)からほぼ変わっていない。金価格は週半ばに一時4540ドル近くまで急伸する場面があったが、週末にかけては4450ドル台まで値を戻している。原油が地政学リスクを背景に高止まりを続けている一方で、金の「有事の逃避先」としての買いは既に一服しているのは対照的で、同じ中東情勢というニュースでも、資産ごとに反応の持続時間が異なることがうかがえる。
暗号資産はビットコインが7万9900ドル前後、イーサリアムが2480ドル前後と、いずれも金曜の水準から小幅に値を上げて週末を迎えている。株式市場が休みの間も24時間動き続けるこれらの資産の値動きは、月曜の東京市場の始まり方を占ううえで手がかりの一つになる。現時点では大きな方向感の変化は見られず、月曜の朝までにホルムズ海峡情勢や中東関連の新たな報道が出るかどうかが、週明けの相場を左右しそうだ。
Movers — きょう大きく動いた銘柄・資産
8月31日夜のホルムズ海峡でのタンカー攻撃を受けた原油急伸を背景に、週明け9月1日の米国市場で資源メジャーとして真っ先に買われた。
エクソンモービルと同様、週明け9月1日に原油高を追い風にした買いが入った。
原油高を背景に週前半まで4営業日続伸し約3カ月半ぶりに株価4000円台を回復していたが、9月4日は利益確定売りが優勢となり反落した。この日の原油相場自体はほぼ横ばいだった。
INPEXと同じく週前半の原油高局面で買われていた反動から、9月4日は利益確定売りに押された。
きょうの用語解説
地政学リスクプレミアムとは、戦争や紛争、テロといった地政学的な緊張によって、実際にはまだ供給が止まっていない段階から商品の価格に上乗せされる「不安の分」を指す。ホルムズ海峡は世界の海上原油取引の4分の1近くが通過する要衝で、日本の原油輸入も9割以上を中東に依存している。タンカーへの攻撃自体は個別の事件に過ぎないが、「この先、海峡が本格的に封鎖されるかもしれない」という将来の供給不安が今の価格に前もって織り込まれることで、原油は実際の需給が変わる前から上下に大きく動く。これが今回、WTIが1週間で9%も跳ね上がった主な理由だ。
この「有事のドル買い」と地政学リスクプレミアムは似て聞こえるが指しているものが異なる。有事のドル買いは紛争時に投資家が安全資産としての米ドルに資金を逃避させる為替の現象であり、地政学リスクプレミアムは原油など供給不安に直結する商品そのものの価格に乗る上乗せ分だ。そしてこのプレミアムには「膨らむのも速いが、萎むのも速い」という性質がある。今回、原油高の恩恵を受けるはずのINPEXやENEOSが、原油相場が高止まりしたままの金曜に売られたのも、週前半でこのプレミアムの多くをすでに織り込んでしまい、新しい悪化材料が出ない限り「材料出尽くし」で利益確定売りが優勢になったためと考えられる。地政学リスクは、事態がさらに悪化しない限り、案外早く相場から「値段」として消えていくことがある。
きょうのなぞなぞクイズ