なぜなぞ相場

むずかしい値動きを、やさしい言葉で。

2026年9月2日号

Today's Market

中東で「出口なき」応酬、原油90ドル台に ― 日経平均2.85%安でも金は下落、主役は『有事のドル買い』

3行まとめ

  • 2日の東京市場で日経平均株価は前日比1889円70銭安(2.85%)の6万4325円64銭と大幅続落。米中央軍が1日、イラン革命防衛隊(IRGC)の拠点を狙った攻撃開始を発表し、ホルムズ海峡でタンカーが攻撃を受けたとの報道も重なって、世界的な金利上昇観測とリスク回避が同時に株式市場を直撃した。
  • 前日1日の米国市場もNYダウが419ドル02セント安の5万2766ドル88セント、ナスダック総合が271ポイント安の2万6099ドル77セントとそろって続落。WTI原油は1バレル=90ドル22セント(前日比+4ドル46セント、+5.2%)と約1カ月ぶりの高値をつけ、米長期金利は4.8%台まで上昇した。
  • 教科書的には地政学リスクが高まると金や円のような「安全資産」が買われやすいとされるが、この日は逆の動きが目立った。金は下落し、ドル円は円安・ドル高が進行。国内の長期金利も一時3.015%と1996年以来の水準に達し、日米そろって『金利』が株式市場の重荷になった一日だった。
日経平均
9/2 東証引け時点
64,325.64
前日比▼ -1,889.70円 (-2.85%)
TOPIX
9/2 東証引け時点
4,113.91
前日比▼ -67.95円 (-1.62%)
S&P500
9/1 NY市場引け時点
7,631.47
前日比▼ -52.34 (-0.68%)
Nasdaq総合
9/1 NY市場引け時点
26,099.77
前日比▼ -271.12 (-1.03%)
NYダウ
9/1 NY市場引け時点
52,766.88
前日比▼ -419.02 (-0.79%)
ドル円
9/2 15時頃(東京時間)時点
160.20
前日比▲ +0.40円 (+0.25%)
VIX恐怖指数
9/1 NY市場引け時点
16.34
前日比▲ +1.12 (+7.36%)
米10年金利
9/1 NY市場引け(概算)時点
4.81%
前日比▲ +0.09% (+1.91%)
金価格(NY金)
9/1 NY市場引け時点
4,303.0ドル
前日比▼ -79.00ドル (-1.80%)
SOX半導体指数
9/1 NY市場引け(概算)時点
11,297.0
前日比▼ -172.66 (-1.50%)
原油(WTI)
9/1 NY市場引け時点
90.22ドル
前日比▲ +4.46ドル (+5.20%)
ビットコイン
9/2 9時頃(アジア時間)時点
77,950ドル
前日比▼ -622.00ドル (-0.79%)

JP日本市場:地政学リスクの再燃で全面安、値がさの半導体関連が下げを主導

2日の東京市場、日経平均株価は寄り付きから売りが先行し、前日比1019円91銭安の6万5195円43銭でスタート。前引けにかけてはさらに下げ幅を広げ、前場終値は同1742円18銭安の6万4473円16銭となった。きっかけは前日1日の米国市場。米中央軍がイランの革命防衛隊拠点への攻撃開始を発表し、ホルムズ海峡を航行中のタンカー2隻が飛来体による攻撃を受けたと伝わったことで、NYダウ・ナスダック総合がそろって下落し、その流れがそのまま週明け明けの東京にも波及した格好だ。

後場に入っても下げ止まらず、一時は下げ幅が1900円超に達する場面もあった。ただし終盤にかけて先物への押し目買いが入り、結局終値は前日比1889円70銭安の6万4325円64銭で着地。前日1日の66,215円34銭からの下落率は2.85%で、8月半ば以来の大きな下げ幅となった。前日1日はTOPIXが日経平均と対照的に上昇していたが、この日はTOPIXも同67円95銭安の4113円91銭と、値がさ株・全体株の別なく『全面安』の様相を見せた点が前日との違いだ。

下げをより強く方向づけたのは、日本国内の材料でもあった。新発10年物国債の利回りは一時3.015%まで上昇し、1996年9月以来およそ30年ぶりの高水準を更新。前日1日に続けて『金利の壁』を意識させる展開となり、東京エレクトロン(8035)は前日比3.73%安の5万2930円まで売られ、日経平均の下げ幅を主導した。半導体製造装置や電子部品、自動車など景気敏感セクター全般に売りが波及する一方、塩野義製薬や第一三共、伊藤忠商事、セブン&アイ・ホールディングス、武田薬品といった医薬品・内需・商社株の一角には値を保つ銘柄も見られ、リスク回避局面での資金の逃避先として『ディフェンシブ株』が選好される典型的な構図となった。

GLOBAL中東情勢・原油・金利・為替・金 ― この日は『有事のドル買い』が主役に

前日1日の米国市場は、米中央軍がイラン革命防衛隊拠点への攻撃を発表したことを受けて地政学リスクが急激に再燃した一日だった。ホルムズ海峡ではサウジアラビア船籍と韓国船籍の大型原油タンカー計2隻が相次いで飛来体による攻撃を受けたと報じられ、原油の供給不安が一気に高まった。NY原油先物(WTI)10月限は前日比4ドル46セント高の1バレル=90ドル22セントと約1カ月ぶりの高値で取引を終え、この地政学リスクプレミアムの上乗せがそのまま週明けの東京市場にも持ち込まれた。株式市場ではNYダウが同419ドル02セント安の5万2766ドル88セント、ナスダック総合が同271ポイント安の2万6099ドル77セントとそろって下落。VIX恐怖指数も前日比7%超上昇の16.34まで水準を切り上げた。

興味深いのは、こうした地政学リスクの高まりに対する『安全資産』の反応が教科書どおりではなかった点だ。通常、戦争や紛争のリスクが意識される局面では、金や円のような資産に資金が逃避しやすいとされる。ところがこの日、NY金は前日比約1.8%安の1オンス=4303ドル前後まで下落し、ドル円もドル高・円安方向に振れて160円台前半で推移した。理由は単純で、市場がこの日の原油高を『地政学リスクによる資金逃避』としてよりも、『インフレ再燃で米連邦準備理事会(FRB)の利上げが長引く/再び利上げに動く』というシナリオの材料として受け止めたためだ。米10年債利回りが4.8%台まで上昇したのはその表れで、金利が上がるほど金利を生まない金の相対的な魅力は薄れる。一方、世界で最も安全とされる基軸通貨としてのドルには、リスク回避と金利上昇観測の両方から買いが集まりやすく、結果として『有事の円買い』ではなく『有事のドル買い』が主役となった一日になった。

日本 日経225構成銘柄より

8035 東京エレクトロン
-3.73%

国内長期金利が一時3.015%と1996年以来の高水準をつけたことに加え、前日1日の米国市場での株安を受け、割引率上昇の影響を受けやすい値がさの半導体製造装置株に売りが集中した。日経平均の下げ幅を主導。

為替・商品・暗号資産 24時間動く主要資産より

CL=F 原油(WTI)
+5.20%

米中央軍によるイラン革命防衛隊拠点への攻撃開始発表と、ホルムズ海峡でのタンカー2隻攻撃の報道を受け、原油の供給不安から買いが集まり約1カ月ぶりの90ドル台に乗せた。

GC=F 金価格(NY金)
-1.80%

地政学リスクの高まり自体は金にとって本来プラス材料だが、原油高が招く利上げ観測(金利上昇)の方が意識され、金利を生まない金は相対的な魅力の低下から売られた。「有事の金買い」が不発に終わった一日。

きょうの用語解説

「有事のドル買い」とは? ― なぜこの日、金や円ではなくドルが買われたのか

地政学リスクが高まったときに資金が逃げ込みやすい先として、金や円がよく挙げられる(本サイトの用語辞典にも「有事の円買い」の項目がある)。円は対外純資産が世界最大級の『安全資産通貨』とされ、金は国家の信用に依存しない実物資産として、戦争や紛争のニュースが出るたびに買われやすいという経験則があるからだ。ところが2日の市場は、この教科書どおりの反応にはならなかった。金は下落し、ドル円はむしろ円安・ドル高が進んだ。これは『有事の円買い』ではなく『有事のドル買い』と呼ばれるパターンで、世界の決済・準備通貨として最も流動性が高いドルに資金が集まる現象を指す。

ただし今回、ドルが買われた理由は流動性への逃避だけでは説明がつかない。鍵を握るのは、原油高が引き起こす『インフレ観測』だ。ホルムズ海峡でのタンカー攻撃を受けて原油が急伸したことで、市場はこの地政学リスクを『資金の逃避が必要な有事』としてより、『インフレが再燃し、米国の利上げが長引く、あるいは再開する』シナリオの材料として受け止めた。米長期金利が同じ日に4.8%台まで上昇したのがその証拠だ。金利が上がるほど、利息を生まない金を保有する機会コストは高まるため、金は『安全資産』でありながら売られる。一方、金利の高い通貨には運用資金が向かいやすく、基軸通貨としての地位も相まってドルが選好された。同じ『地政学リスクの高まり』というニュースでも、市場がそれを『安全への逃避』の材料と受け止めるか、『インフレ・金利上昇』の材料と受け止めるかによって、金・円・ドルのどれが買われるかが変わってくる。次に有事のニュースが出たときは、金と長期金利が同時にどちらへ動いているかを見ると、市場がどちらのシナリオを取っているかのヒントになる。

きょうのなぞなぞクイズ

2日、中東情勢の緊迫化で原油が急伸する中、教科書的には「安全資産」とされる金は値下がりし、ドル円は円安・ドル高が進んだ。この現象を説明するうえで最も重要なキーワードは?